更年期 ホルモン補充療法効果と副作用
ホルモン補充療法(HRT)とは?
更年期を境として、女性ホルモンの分泌が低下することはすでに述べました。それに伴って出現するのぼせ、ほてり、イライラなどの不愉快な症状が更年期障害です。そこで、少なくなった女性ホルモンを補い、これらの症状の改善を図るのがホルモン補充療法です。
基本的には卵胞ホルモン(エストロゲン)の投与でよいのですが、エストロゲン単独投与の場合、ときおり不正出血をみたり、子宮体がんの発生が増えるなどの心配がありますので、これらの予防のために、もう1つの女性ホルモンである黄体ホルモン(プロゲステロン)も補充します。
したがって、ホルモン補充療法では通常、エストロゲンとプロゲステロンの両方の女性ホルモンを投与します。
HRTに使用する薬は?
- A) エストロゲン剤(プレマリン錠、ジュリナ錠)+プロゲステロン剤(プロベラ錠など)の服用
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標準的な方法です。よく行われるお薬の飲み方として…
- 閉経して5年以上経ち生理を望まない方は: エストロゲン剤とプロゲステロン剤を連続して服用します。
はじめの頃は不正出血があったりしますが、服用を続けているとやがて出血はなくなります。 - 閉経後5年以内か、生理のような出血があってもよい方には: エストロゲン剤の連続服用にプロゲステン剤の周期的な服用を付け加えます。
つまり、最初エストロゲン剤単剤を飲み、1ヵ月の後半の10日から2週間ほどは、エストロゲン剤と一緒にプロゲステロン剤も飲みます。お薬を飲み終えると出血があります。
- 閉経して5年以上経ち生理を望まない方は: エストロゲン剤とプロゲステロン剤を連続して服用します。
- B) エストロゲンとプロゲステロンの入った合剤の使用
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- 貼り薬(メノエイドコンビパッチ): 週に2回ほど(例えば月曜日と木曜日、火曜日と金曜日など)貼り薬を下腹部に貼ります。
このお薬は皮膚から吸収されるタイプで、飲み薬と異なり肝臓に負担をかけないという利点があります。ただ、人によっては、貼った場所の皮膚がかぶれるなどのトラブルもあります。ふつうは生理のような出血はみられません。 - 皮膚がかぶれる傾向をお持ちの方には: エストロゲンとプロゲステロンの入った錠剤(ウェールナラ配合錠)を連日服用する方法も行われます。
- 貼り薬(メノエイドコンビパッチ): 週に2回ほど(例えば月曜日と木曜日、火曜日と金曜日など)貼り薬を下腹部に貼ります。
- C) エストロゲンの単独使用
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手術などで子宮を摘出された方は: エストロゲンのみを主として連続使用します。
これには錠剤(プレマリン錠、ジュリナ錠、エストリール錠)、貼り薬(エストラーナ、フェミエスト)、ジェル剤(ル・エストロジェル、ディビゲル)の種類があります。
- D) 低用量エストロゲンの使用
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症状が軽かったり、短期間の使用を希望される方、あるいは腟炎、腟委縮の予防には: エストロゲン作用の弱いお薬が用いられます。飲み薬(エストリール錠、ホーリン錠)と腟錠(エストリール腟錠、ホーリンV錠)があります。
※このようにお薬の投与法は、HRTの実施期間、病状の程度、子宮の有無、閉経からの年数などによって異なります。
HRTの効果は?
顔のほてり、のぼせ、汗をかきやすい、動悸、息切れなどの血管運動神経症状には速やかな効果が期待できますし、イライラ、不安、脱力感などの改善にもかなり有効です。HRTを始めたとたん晴ればれとしたお顔で、「信じられないほどすっきりしました!」とおっしゃる女性も少なくありません。
ほかにも、
- 血中のコレステロール値を下げる効果があり、動脈硬化の予防につながる。
- 閉経早期から開始した場合はアルツハイマー病の予防効果も期待できる。
- 皮膚のコラーゲン量の減少を抑える美肌効果も兼ね備えている。
- 骨を形成している骨塩量の減少を抑え、骨そしょう症の予防にも効果的である。
など、生活の質(クオリティオブライフ)を高める理にかなった治療法です。
治療開始の時期はいつ頃がよいのでしょう?
HRTの開始時期は、一般的には閉経直前の頃がよいとされます。しかしながら、すでに閉経後何年か経っていたとしても、それ以降の老化を緩やかにさせる効果は期待できますから、治療を開始するメリットはあります。そういった意味からもHRTは、十分な医学的根拠をもったアンチエイジング法と言えるでしょう。
HRTの副作用は?
治療を始めた頃に、乳房の張りや痛み、あるいはちょっとした出血をみることがありますが、大半は、そのままお薬を使用しているうちになくなってしまいます。なかなか収まらない場合には、ホルモン量を調節するなどして対応します。
ただ、ホルモン剤には若干血液を固まりやすくする働きがありますので、血栓症(血管の中に血液のかたまりができて、血管がつまる状態)には注意が必要です。頻度はマレですが、ふくらはぎの腫れ、むくみ、胸の痛みや強い頭痛などがあった場合には、お薬の使用を止め、すぐにご相談ください。
また、お薬に対するアレルギー、卵巣がんや子宮体がんなどの既往をお持ちの方や、心臓、肝臓に病気をお持ちの方、あるいは高血圧、糖尿病などを治療中の方は、病状を悪化させることもありますので、お薬をつかってもよいかの判定は慎重になります。
HRTを行ってはいけない方
2009年に学会から「ホルモン補充療法のガイドライン」が出され、HRTを行ってはいけない場合が示されました。
それは
- 重度の肝臓疾患のある人
- 乳がんおよびその既往のある人
- 原因不明の性器出血のある人
- 妊娠が疑われる人
- 血栓性静脈炎、血栓塞栓症とその既往のある人
- 冠動脈疾患の既往のある人
- 脳卒中の既往のある人
で、このような方々にはHRTは実施できず他の方法が試みられます。
HRTとがんとの関連について
HRTを行うと、がんが発症すると心配される方がいらっしゃいますが、子宮頸がんとの関連は、特別認められていません。
また、子宮体がんについては、エストロゲンにプロゲステロンを併用することによって、その発症を抑えることが可能です。
乳がんについては、2002年に米国のWHIが、5年間HRTを実施したグループで乳がん患者数が増加したと報告(年間の乳がん患者が人口1万人あたり30人から38人へ上昇)しましたが、もともと肥満、高血圧、喫煙者の女性を多く含む、いわば発がんリスクの高い人たちが対象であったことや、この数字をそのまま日本人に置き換えると人口1万人あたりの発症者数が8人より11人に増える程度にとどまるなどから、それほど神経質にならなくてもよいのではないかと理解されます。ただ、HRTを行っているいないにかかわらず、乳がん検診は常に必要な検査です。
HRTを始めるにあたって
HRTを始める際には、血圧や体重測定のほかにあらかじめ次に述べるような検査を行います。これらの検査はHRTを安心してお受けいただくために必要なもので、治療継続中は定期的にチェックいたします。
血液検査 | 貧血検査、肝機能、腎機能、血糖、脂質(中性脂肪、コレステロール)、ホルモン値(女性ホルモン、下垂体ホルモン、甲状腺ホルモン) |
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子宮がん検診 | 細胞診(頸がん、体がん) |
超音波検査 | 子宮、卵巣所見 |
乳がん検診 | 乳腺外来(外科) |
骨密度測定 | X線検査(放射線科) |